2004年3月3日
『健脚5時間、並足6時間、遅い人では8時間かかる』
『男でも8時間、女は9時間以上かかる』
そんな脅しにあいながら、早朝6時半、12番札所焼山寺への山道を登り始めた。
そう、ここは四国巡礼最初にして最大の難所、700メートル級の山を、登って下りて、登って下りて、最後にもう一回登ってようやく寺に着く。
どう考えてもおかしいだろ…。なんで旅の4日目で最難関に挑まにゃならんのさ。なあ、おかしいと思わないかい?弘○大師さんよ…。
そんなことをボヤいてもお大師様は何も言ってくれないのでおとなしく登る。
朝早いということで、とてもすがすがしく、眼下に広がる吉野川と徳島平野の風景はとてもきれいだった。
まあそんな余裕はすぐになくなり、無言で山を登り続ける。
1時間ほど登ると「長戸庵」という小さなお堂にたどり着いた。
地図を見ると、12番札所までの間には3か所、小さなお堂があり、休憩ポイントとなっているようだった。
『ここには、ちょっと前まで人が住んでいたらしいよ。』
金本兄貴が教えてくれた。ホントにこの人何でも知ってる。
『でも、女の人が怖がるからってどかされたんだって』
まあこんな人気のない山の中じゃ、男だってこわいわな…。
少しの休憩の後山登り再開。
木以外何もない道をひたすら歩いて行く。
どうでもいいけど、こんなところで熊とか猪でたらたまんないよなあ。
それぐらい、周りには何もないし、誰もいない。けっこう怖い。
ただ、このころになると大分山道にも慣れてきたのか、最初ゼエゼエ言いながら登っていた坂道がそれほどきついものでなくなってくるから不思議だ。熊にあわないために、僕は昨日の高速ばあさんとの戦いのとき並みに早足で歩いた。
そんなこんなで、2番目の休憩ポイント「柳水庵」には、スタートから2時間ちょっとで到着してしまう。聞けば、ここは12番札所への道のちょうど中間にあたるらしい。
あれ、ということはあと2時間。11時前にはついちゃうんじゃないかな…。
『男でも8時間、女は9時間以上かかるんですよお』
…。
あれぇ…。
とりあえず気を取り直して先へ進む。
余談だが、この山道沿いには様々なメッセージカードのようなものがぶらさげられている。ほとんどが、『もう少し、がんばれ!』とか『あと一息!』みたいなお遍路さんを励ますものなのだが、時々、『人生とは何か…』 『本当の自分とはなにか…』などという深いメッセージがあるからたまらない。
しまいには『キリストはあなたをみているぞ!』とか、もうお遍路さんとひとっつも関係ないやん…なんてものまででてきやがる。
そんなこんなで、キリストにツッコミをいれつつ歩いていると、最後の休憩スポット「一本杉庵」が姿を現す。
その名の通り大きな一本杉がそびえる場所なのだが、正直、今はそれに感動しているどころではない。どう考えても予定が早すぎる。
こりゃあと1時間で着くぞ…
ちなみに今日の宿は12番札所の宿坊の予定。夕方までかかることを想定して予約したのに、まさかこんな展開になろうとは…。
誰だよ、『男でも8時間、女は9時間以上かかるんですよお』なんて書いたのは…。
しかし、いつまでもここにいるわけにはいかない。というか、とまっていると寒い。そう、ここは700メートル級の山の中。そして今はまだ3月の始め。さあさっさと歩かないと凍死しちゃうぞ。
一本杉庵からはかなりの急坂。聞くところによると、先日この坂で転落した人がいて、骨を折る重傷だったらしい。それは怖い。
転ばぬように慎重に降りていると、後ろから声をかけてくる人がいる。
『あんちゃん、はやくあるくと危ないけえ!』
そういうと、このおじさん、僕の横を颯爽ととおり、坂を駆け下りていった。いやあなたたの方こそ…。
急坂を下り小さな集落を抜けると、いよいよ最後の山登り。しかし、この登りがきつかった…。急坂を下って膝がガクガクしているところでこの登り。今まで余裕こいてたけど、最後にこんな試練を持ってくるとは、すごいな、弘法大師のおじさんは…。
3分登って少し休憩、このペースでじわじわ登っていく。こりゃ昼前の到着は厳しいかな。そんなことを考えていると上の方から声がした。
『あんちゃん、はやいな!おれはもうだめだけん!』
さっきのおやじだ。そりゃあれだけ高速で下りたらねえ…。
その後もじわじわ、じわじわ山を登りようやく12番札所焼山寺に到着。時計を見ると11時半ちょっと前。およそ5時間ほどで着いたから僕は健脚の部類にはいるのかしら?
あまりに早く着いてしまったので、宿坊の人に事情を話す。すると、
『さっさと先にいきなさい!キャンセル料はいらんけん!』
といわれる。
ホントにいいのかなあ?自分のところの儲けが減るんだよ。
でもここは、宿坊の方の親切に甘えさせていただこう。
さっそく、麓の民宿を予約し山を下りる。きれいな川沿いの道をとぼとぼ歩き、夕方5時前に到着。
ここは神山温泉という温泉地。疲れをいやすために早速公共浴場へと向かった。
普通のお湯とは違って妙にヌルヌルする不思議なお湯につかっていると、どこからか声が聞こえた。
『あんちゃん!無事だったのけ!』
ああ、さっきのおやじだ…。それはこっちのセリフだなあ…。
本日の行程
11番 → ひたすら山道 →12番 → 神山温泉泊
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