リニアの雄姿
12月1日(土)
上海にはリニアモーターカーが走っているらしい。
今日は、世界最速、430キロをだすというそいつに乗ってみることにした。
昨日は、上海の昔ながらの風景に出会うことができた。ならば今日は、近代的な上海を見てやろう、こういうわけ
…だったらいいんだけれど、そこはミーハーな僕である。世界最速の乗り物があるとういうのに、乗らずに帰るわけがない。
上海のリニアモーターカーの駅は、いま上海で最もアツい浦東地区からしばらく行ったところにある。ここと空港のあいだ、30キロぐらいをわずか7分ほどで結んでいるのだ。
宿から歩いて10分ほどの南京東路駅から地下鉄で浦東地区へ向かう。
南京東路駅周辺は、いわゆる若者の街といった感じで、飲食店や服屋さんなどの入ったビルが立ち並び、ご多分にもれず、多くの人で賑わっていた。
一昨日のことである。
CDショップへ行った帰り道、僕はこの場所で、人生で初めて「ナンパ」というものをされた。ナンパ「した」のではない。ナンパ「された」のだ。
駅の前に立つ街灯の前で、地図とにらめっこしていた僕の背後から突然声が聞こえた。
「Are you Korea? 」(あなた韓国人?)
後ろを振り向くと、そこには大学生風の女性2人が立っていた。
「No. I am Japanese」(いや、日本人だし)
僕がたどたどしい英語でそう答えると、彼女たちは、僕の『地球の歩き方』覗き込んで、
「ワーオ!リーベンフォア!」(日本語だあ~)
などとはしゃぎだした。
「Let‘s drink coffee with us !」
(私たちと一緒にコーヒーでも飲みに行きましょうよ!)
思いもがけない言葉に、僕は頭が真っ白になってしまった。だって、ナンパされるのなんかはじめてなんだもん。よりによって、なんで人生初のナンパがこんな異国の地なのかなあ。
「Oh, sorry…」(ごめん無理やし)
上海2日目、ここまであまりの人の多さに若干うんざりしていた僕。しかも病み上がりときている。この子たちとお茶をするより、今はさっさとホテルのベッドで横になりたかった。
「Why?」(なんで?)
彼女たちはなおも食いついてくる。
「I´m sick ! (Hakkusyun!)」
(風邪ひいてるのよ。(はっくしゅん!))
「Let‘s go to hospital! Come on! 」
(そりゃ大変!病院連れて行ってあげるから!さあ早く!)
くそっ!どこまでしつこいんだこの姉さん方は。
「No! I take medicine
and sleeping at hotel!
This is good method!Good!」
(薬飲んでホテルでねてりゃ治るから!)
そういって、僕は彼女たちから離れホテルへ向かった。
いま改めて思い返すと、惜しいことしたなあと思うわけだけれども、なにせ病み上がりだったのだからしかたがない。
でも、ちょっと惜しいことしたなあ…・
ちなみに、この話を後日、後輩の子にしたところ、あっさりとこう言われた。
「よかったですね!壺売りつけられなくて!」
地下鉄をおり、リニアの駅へ入る。さすが、できたばかりということもあり実に綺麗な建物だった。
窓口で切符を買って改札をくぐる。往復で1000円以上するらしく、中国の交通機関の安さに慣れてしまった僕は切符を買う段階で断念しそうになってしまったが、気合いを入れて購入する。
改札には係りの人がいて、空港の荷物検査のようなものもあった。
ホームは駅舎の3階位の高さにあり、ここもめちゃくちゃ明るくきれいだった。ホームにいる人を見ると、ビジネスマンっぽい人にまじって家族連れやカップルの姿も見えた。空港に行くにはこのリニア以外にも格安のバスがあり、ふつうの人はそちらをとるようで、リニアは空港へ向かう手段としてより観光スポットとして見られているようだ。まあ僕自身観光できているわけなんだけれど…。
ホームの下をのぞいてみると、当たり前と言っちゃ当たり前なんだけれど、線路が見当たらなかった。さすがリニア。浮くのである。
5分ほどホームでふらふらしていると、空港からの客を詰め込んでリニアが到着した。
全部で3両編成(ぐらい)でそのうち1両がグリーン車だった。わずか7分のためにグリーンを利用する客なんているのかしらね?だれも乗らないなら勝手に忍びこんじゃおうかな…。
とおもって列車の出入口を見ていると、歴史の教科書の大正時代あたりによく載っている、料亭の玄関で「あら暗くてお靴が見えませんわ…」などといっている女将に『どうだあかるくなっただろう、ははは』なんて言いながらお札に火をつけてかざしている恰幅のいい、要するに成金おやじが若いおねえちゃんをつれて入っていったので、僕はおとなしく普通車両に…。
車内は通路をはさんで3席ずつ座席が並んでおり、パッと見、関空へいく南海のラピード(だっけ?)やJRのはるかのような感で座り心地はなかなか良かった。
乗り込んで5分ぐらい。何言っているかわからないアナウンスが流れ終わるといよいよ出発。
さすがリニア、スルーっと静かに出発。しかし加速しだすとガタガタと揺れ始めた。
車両の前にある電光掲示板の速度表示が300キロをこえると、窓際に置いてあったペットボトルが振動に耐えきれず下に落ちてしまうくらい、それぐらい揺れた。
僕は出発から、電光掲示板の世界最速表示を撮るべくデジカメを構えていたが、とにかくぶれるったらない。出発3分ほどで世界最速に到達したが、あまりの揺れの大きさに感動するどころではなかった。ほかの客も「おいおい事故るなよ…」とでも思っているのか、一様に必死に前の座席にしがみついていた。
最高速度を出してからは20秒ほどで減速を始めるのでちょっとは落ち着きを取り戻したが、日本でなかなか実用化されないわけがなんとなくわかった気がする。この揺れで東京~大阪間を走られたらたまったもんじゃない…。
そんなこんなで、わずか7分のリニアの旅はあっという間に終わったわけだが、正直空港についてもすることがない。僕の帰る飛行機は二日後、それも北京からなんだ。
情けない話だが、僕は一旦改札を出たあと、すぐに回れ右をし再び改札をくぐり同じ車両に乗り込んだ。どうでもいいけどこのリニア、車両の入口に係りのお姉さんがいる。2分前におりた僕が戻ってきたもんでお姉さんはニヤニヤ。だって、だってしょうがないじゃん…。
帰りはある程度揺れるポイントがわかっていたので、行きよりだいぶ落ち着いて外を眺めることができた。
リニアの隣には高速道路が走っており、車も結構な速度を出しているんだろうけれど、リニアは面白いように彼らを抜いて行った。さすが世界最速。車窓の風景の流れ方が異常なほど早かった。
それから一つ気がついたことがあった。空港から上海市内までの30キロはほとんどがのどかな田園地帯で、ゆったりと川が流れ、牛なんかの姿も見ることができた。あれほど発展している上海市内から数分行くだけで田園風景が広がるのどかな風景に変わってしまうことにちょっと驚いてしまった。
上海はここ二、三十年で一気に発展してきたと聞いたことがあるが、数十年前は、あの高層ビル群のあたりもこんな景色だったのかしら。ということは、あと数年もするとこのあたりにもビルが立ち並ぶのだろうか。
あとで知ったことだけれど、いま上海では、2010年に開かれる万博へむけて街の再開発がおこなわれているらしい。どおりで僕が行った時もあちこちの道路をほじくり返していたわけだ。しかしそうなると、昨日見た昔ながらの中国の雰囲気漂うあの路地裏も、町はずれの農村も消えてしまうのだろう。北京で見た古い住宅の解体工事現場をふと思い出し、ちょっとさびしい気持ちになった。
再び南京東路へ戻り、しばらく周辺を散歩した。
早いもので、明日の夜、僕は北京へ向かう夜行列車に乗らなくてはいけない。人で溢れかえったとっても疲れる街・上海、特にいいこともなかったこの街から脱出できるかと思うと、少し気分が楽になる。それほど、この街は、田舎者の僕には厳しすぎる街だった。
そんなことを思いながら、黄浦江沿いのベンチに腰かけ、途中のマクドナルドで買ったポテトをつまみながら、川沿いに建つ高層ビルのライトアップをぼんやりと眺め続けた。
宿へ帰る途中、僕はいつも夕食を買い込んでいたファミリーマートへと立ち寄った。悔しいけれど、ここの弁当は安くてとても美味しかった。
もう上海に来ることないだろうし、弁当の買いおさめだ。
そう思うと、たいしていい思い出のなかった上海ではあるがちょっとさびしい気持ちになった。
会計のレジにて、この4日間いつも顔をあわせていたバイトっぽい女の子が、帰り際に「バイバイ!」と笑顔で言ってくれた。
4日間、毎晩弁当を買いにくる怪しい外国人、と、僕のことを覚えてくれたのだろうか。冷たい人ばかりでうんざり気味だった僕は、なんともすがすがしい気分になった。
この街にもあんな子がいるんだな。
上海最後の夜にものすごくいい気分にさせてくれたあの子に感謝しつつ、僕は宿へ戻った。
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