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38日目 つづき

88番札所の手前には、標高700m以上の女体山という最後の難関がそびえたっているらしい。

そういえば、昨日の五台山が最後の難関って言っていた気もするけれど、そこには深く突っ込まないようにして、登山道目指して歩いて行く。

いままでの旅のことを思い出しているのだろう、2人とも全く口を聞こうとせず、ただ黙々と歩いて行く。いつもだったら真っ先に立ち寄るコンビニも今日は見向きもしない。

途中、一台のバスが前方より走ってきた。車内には一人のお遍路さんが乗っており、僕たちに笑顔で手を振ってきた。きっとつい先ほど、結願を果たしたのだろう。ものすごく爽やかな顔をしていた。

僕たちも、あと数時間後には、あんな爽やかな感じになっているのかしら。

登山道へさしかかる少し手前に、『お遍路交流サロン』という名の施設があり、休憩がてら立ち寄ってみることに。

館内には、江戸時代の納経帳をはじめとしたお遍路関係の貴重な資料が展示してあり、ものすごく興味深かった。しばらく見学していると、館長さんらしきおじさんに声をかけられた

『ここに名前書いてくれる?証明書出すけん』

証明書?なんのことやらさっぱりわからないけれど、断る理由もないので、とりあえず自分の住所と名前を記入する。

5分ほどすると、先ほどの館長がなにやら賞状のようなものを手にしてやってきた。

『四国遍路を歩き切った証明書です。よう頑張りました!』

賞状には、『四国遍路を歩き切ったことを証明する』、『これからは、四国遍路大使として、四国遍路の維持や保存に関わってくれ』というようなことが書かれていた。

『四国遍路大使』がなんなのか分からないうちに任命されてしまったのはちょっと気にかかるが、この証明書は本当にうれしかった。

納経帳を見れば、僕がお遍路をしたことは分かるけれど、これじゃあ歩いたのか車で周ったのかわからない。この証明書のおかげで、僕が歩き遍路をしたことが後世に伝えられるわけだ。

ついつい居心地がよく長居してしまったが、立派な証明書をもらったからにはいつまでもグズグズしていられない。残りはあと10キロ。さあ出発!

と、その時、地元のおじいちゃんおばあちゃんが僕らを見つけ話しかけてきたので、しばらく談笑することに。まあ時間はまだあるのでもう少しここにいても問題はないだろう。

初めは、僕らのここまでの旅のことを中心に会話が進んでいたのだが、不思議なことに途中から思わぬ方向に話が展開し始めた。

『君ら学生さんか?私はこの前まで早○田大学で教授をしていたんよ。専攻はお遍路のことでな』

これに驚いたのは相方林。卒論のテーマをお遍路にしようとしていたものの、ここまでテーマが決まらず苦しんでいた模様。しかし、ここにきて偶然出会ったおじいちゃんが、まさかお遍路の研究者だとは…。

いろいろと興味深いことを話してくれて、相方は大満足。

すると、おじいちゃんは、今度は僕たち2人にむけてこんな話をしてくれた。

『これからの人生で、一度「この道で行くぞ!」って決めたら、勇気を持ってそれに突き進みなさいよ。それがたとえ困難な道でも、人とは全く違う道でも、とにかく勇気を持って突き進みなさい』

四国遍路というのは本当に不思議だと思う。

ここまででも幾度となく言ってきたが、この旅が終われば、将来の進路を考えなくてはいけない大事な時期に入って行く。そろそろ、真剣に進路を考えなくてはいけないな。周りの友人たちをみてちょっとした不安を抱えながらこの旅に出た。するとどうだろう。こちらから悩みを打ち明けたわけでもないのに、出会う人たちがみんな、将来のことを考えるヒントや助言を与えてくれた。

『仕事はたのしまなくちゃ駄目だ!』

その言葉を聞いたのは1ヶ月前、高知の海岸でのことだった。

『若いころにはどんどんチャレンジせないかん!若者には期待してるよ!』

今治では、ホリエモンおじさんにそんな言葉をかけてもらった。

『将来のこと考えてるかい?』

僕と同じような悩みを持った友人とコンビを結成したのはたしか松山だった。

そして今日、旅の最後の最後にきてこれだもの。

ちょっと出来すぎてやいないかい?なんか裏に脚本家でもいるみたいだもん。まあおそらく『あの人』だとは思うけれど。

『俺、やっぱり公務員の勉強頑張るわ。卒論もあって大変やけど。突き進んでみるわ』

相方林は、先ほどの言葉で迷いが消えたのだろう。歩き始めてすぐ、すっきりとした笑顔でそう言った。

僕は、相方のように『これだ!』というものはまだ決められないけれど、やはり先ほどのあの言葉で、ある程度決心がついた。やりたいことはたくさんあるけれど、とにかくどの道を選んだとしても、勇気を持って突っ走ってやろうと…。

交流サロンからしばらく行くと、いよいよ山道が始まった。昨年の台風の影響からか、土砂崩れの起きている場所もあり慎重に進んでいく。

緩やかな山道が終わり、いよいよ本格的な登山道が始まる。とにかくキツイ。30キロ以上歩いてからの登山は本当にハードだ。息を切らしながら、じわじわ登って行く。

「おっ、頂上じゃないか!?」

急に視界が開ける。

しかし、前方にはいま登ってきた山の倍はあろうかという山がそびえ立っていた。

『おいおい、あれ登れってか?』

最後の難関、女体山がついに姿を現す。というか、ここまで登ってきた山は女体山じゃなかったんですね。

一旦下ったのち、再び登山を開始する。

時計を見るとすでに17時を回っており、あたりも暗くなり始めていた。最後の最後に遭難なんて事態はなんとしても避けたい。とにかく前のみを見つめ、進んでいく。

「おいおい、岩場かい?」

『おぉ…、バカじゃないの…』

なんと岩場まで姿を現した。おかしいよ、岩場って。僕ら登山家じゃないんだから、岩場の登り方なんか知らないもの。

そんな愚痴が浮かぶものの、口にしたところで改善されない、それどころか雨を降らされることを僕らは知っているので、とにかく慎重に鎖につかまり、必死に登って行く。

もう少し、あと少しなんだから…。

そして…

『よっしゃ!ついに頂上だろ!』

先に岩場を登りきった相方が叫んだ。

「マジか!」

僕も急いで岩場を登り切る。そこはちょっとした広場のようになっていた。

『よおしっ!ついに四国遍路完全せいh』

「ちょ、ちょっとまてよ…」

『なんだよ?』

「気のせいかなぁ、向こうにまだ岩場が見えるんだけど…」

『ああ!?』

…。

ああ、あるね岩場が。奥の方に。

せっかく最後ぐらい格好よく終わろうと思ってここまでふざけずに来たのにさ。糠喜びだもん。まあ、なんとも僕ららしいというかなんというか…。

とにかく、気を取り直して、今度こそ格好よく終われるよう、岩場を必死に登って行く。

もう少し、あと少しなんだから…。

そして…

『よし、もっもう岩場ないよな?』

「よっ、よく探そうぜ」

完全に疑心暗鬼な2人。しかし、これ以上の岩場はそこにはなかった。

あるのは、空中に突き出た大きな岩と、その向こうに見える讃岐平野の絶景だけだった。

『よおっし、今度こそ四国遍路完全制覇!』

「いよおっし!」

夕暮れの讃岐平野を見下ろしながら、僕らはいつまでも叫び続けた。

本日の行程

84番→85番→86番→87番→女体山→88番門前の宿 合計40キロくらい

女体山より

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