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33日目  蜃気楼

2005年3月15日

お遍路の旅をはじめてからというもの、とにかく食べるようになった。夜はもともと食べる方だったのだが、それでもコンビニ弁当、カップラーメン、菓子パン、ポテトチップスのセットを連日食べるほどの元気はなかった。

夜にそれだけ食べておいて、朝ごはんまでしっかりと食べてしまうんだから困ったもんだ。素泊まり基本なので朝食を宿で取ることはそれほど多くはないのだが、昨晩泊まった西条市のビジネスホテルはなんと朝食無料、しかもパン食べ放題ということで、朝からあり得ないくらい食べた。

出発してから、林がこんなことを言いやがった。

『フロントのお姉さん、パン食べている俺ら見て引いとったで…』

フロントのお姉さんが引くくらい食べる。それが僕らの朝食スタイルだった。

さて、次なる札所、65番三角寺は、西条市から40キロ近く先にある。しかも、地図を見る限り国道11号線をひたすら歩くみたい。

国道と来て思い出すのは、室戸岬へと向かう際にひたすら歩き続けて、ついに足を破壊されたあの強敵、国道55号線。

しかし、あれからもう20日以上経過している。体力的にも、そして精神的にもたくましくなってきている僕にとっては恐れるに足らず!

そう思ってはみたものの…。やはり国道というのは厳しい。

後でしったことなのだが、この国道11号線、香川県高松市と松山市を結ぶ主要な道路。しかも、四国北部地域というのは、四国地域内有数の人口密集地帯であり、造船やら製紙関係の工場が連なる産業集積地帯でもあるらしい。

とくれば、車の往来、特にダンプやトラックなどの大型車の往来が激しいに決まっている。

さらにいうと、不思議なことにこの国道、歩道が全くと言っていいほどないのである。もう端っから車のことだけを考えた道なんです。

そりゃそうだ。松山から高松まで歩いて行こうなんて奇特なやつ、めったにいないもの。

『おい!いまダンプ俺の服に掠ったぞ!』

白線の内側1.5mの隙間を歩いていれば掠りもするさ…。ぞんな狭さだから、当然二人並んで話しながら歩くことも不可能。そんなことをしたら死にます。

ストレスはたまる一方。ただただ、無言のまま歩いて行く僕たち。

しかし、それが功を奏したのか、昼ごろになると前方に大きな煙突が見え始めた。

「あそこが伊予三島じゃんな」

本日の目的地、伊予三島市には大王製紙という大きな製紙会社があり、そこには馬鹿みたいに大きな煙突が立っている

『なんだ、案外すぐ近くやん』

そう、ちょっといけば到着しそうなくらい、煙突はすぐそばにあった。というか、すぐそばにあるように見えた。

俄然やる気の出てきた二人。しかし、それが弘法○師おじさんの罠だとは、知る由もなかった。

『おい、なかなかつかねえな…』

1時間もすると、なにかおかしいことに気付き始める。

「まあもう少しだろ。だってあんなに近くに見えるんだぜ」

『ああそうだな。おし頑張っていこうや!』

しかし、2時間3時間たっても一向に到着しない。

『なあ、俺気づいたんだけど』

「ああ?」

『さっきから大きさ変わらなくないか?あの煙突』

3時間もしてようやく気がつくのもどうかと思うけど、そうなのだ。明らかにあの煙突の大きさが3時間前と変わっていないのである。

もう10キロ以上歩いているというのに、煙突が全然近づいてこない。

「なあ、あれ蜃気楼なのかな…」

別に僕らは砂漠を歩いているわけではない。しかし、本気で蜃気楼なのではないかと考えてしまうほど、僕らは精神的にやられていた。

国道を一直線に歩くだけの単純な行程、腕を掠めるトラック、そしていつまでたっても近づいてこない煙突…。精神がおかしくなるに決まっている。

今まで、体力的にきつい道はいくつもあった。しかし、精神をやられる道といううのがこんなにつらいなんて…。

旅も終盤に近づいて体力だけは付いてきたようだから、今度は精神を破壊する作戦に変更したようですね、弘法○師のおじさんは。はいはい、あなたの作戦勝ち。もう僕らは降参ですよ…。

伊予三島の宿に到着した時には、僕らは今までにないほどの疲労感を感じていた。体力的にきついだけの道なら、ゴールした時に気持ちの良い達成感があるんですが、精神をやられると達成感すら感じなくなるんですね。

宿の受付に四国全図が張ってあり、それを見てちょっと驚いてしまった。

「俺ら、今日だけでここからここまで歩いたんだよな」

四国の上には兎の耳のような出っ張りが2本んでている。その耳と耳の間にある窪み。そこを今日一日で歩いてしまったのだ。

『まじか…。バカだな俺ら。』

「うん。バカだよな」

いつもは、どの程度歩いたなんて一々確認しないので気付かなかったけど、改めて見ると、本当に僕らは馬鹿げたことをしているんだなあ、と気づく。

『というか明日から香川県はいるやんか』

「!!」

コンビ結成以来、自分たちがどこを歩いているのかさえ分からないほど異常な歩行を続けていた我々。

そして今後、この異常さはさらに増していくことになる。

本日の行程

西条→伊予三島     合計35キロくらい

夕暮れの伊予三島

042

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