31日目 弘法○師のおじさん
2005年3月13日
愛媛の人はなんて優しいのだろう。
昨日、57番札所栄福寺のおばさんと他愛もないことを話し、午後4時過ぎに58番札所仙遊寺の宿坊に到着。ここの方々が本当にいい人たちだった。
今後の予定について相談に乗ってくれた若くて楽しい尼僧さん。昔、吹田に住んでいたということでえらく話が盛り上がった食堂のおばちゃん。恒例のあさのお勤めでは、先日この寺に弟子入りしたばかりという中学生くらいの少年がお経を唱え、その後の説法で登場した住職さんは、僕が伊豆の出身だとわかると『伊豆の踊子』にえらく憧れていたという話をしてくれた。
昨日の一件と言い、ここ数日、愛媛の人たちの優しさに触れまくっている。いままで通ってきた土地でもたくさんの優しさを受けてきたけれど、ここ数日は特にそんな気がする。
原因はよくわからないけれど、今思うと、旅に対して余裕が出てきたからなのかもしれない。昨年歩いた徳島は別として、高知を出発してから松山に入るまで、僕はかなり異常な状態で旅を続けてきたように思える。とにかく距離を稼ぐために脇目も振らず歩き続けた前半戦。怪我をしたことで結果的に甘えが出てしまい、やる気の全く出なかった後半戦。そして、44番札所から松山まで歩き切ったことをきっかけにして、その異常ともいえる状態から脱却し、林という相方を得たことで心に余裕が出てきた。そのおかげで、周りの人たちの優しさを素直に感じることができるようになってきたのかもしれない。
いやあ、旅の後半になって、ようやく僕も成長してきた気がするねえ。
しかし、もっと早く余裕を持てていれば、さらに有意義な旅ができたんじゃないのかい?全く、いつも気づくのが遅いんですよ、こいつはさ…。
そんな優しかった宿坊の方々ともお別れし、僕らは旅を続ける。
今日は59番札所から63番札所まで歩く予定でいた。といっても、60番札所は翌日に回し、先に61番~63番札所を打とうという変則日程。
というのも、60番札所横峰寺は標高780mに位置する難所。しかも、そこまでの登山道が昨年の台風で通行不能となっている模様。歩けないこともないらしいが、どういうわけか昨日より小雪が舞うほどの寒さが瀬戸内地方を襲っている。荒れ果てた危険な登山道を雪の舞う中歩くというのは正直危険な香りがする。と、以上が宿坊の尼僧さんや他のお遍路さんからの情報であり、これに基づき、僕らは上記のような変則日程を組んだのだった。60番札所へは通行不能とされる登山道以外に車道も通っているらしく、明日朝の天候次第で、どの道を行くか決定しよう、という見事なまでの作戦である。
午前10時過ぎに59番札所国分寺を打ってからは、61番札所までの20キロ弱を、国道196号線沿いに歩き続けていく。交通量も多く全く面白みのない道ではあるが、二人で歩いているとそんな道でも楽しくなってくるから不思議だ。
「さっき遊々○書読んでたろ?」
『久しぶりに読むとめちゃくちゃ面白いんだよなあ』
これは漫画の話し。
お昼に立ち寄った小さな喫茶店に偶々漫画が置いてあり、活字に(というか漫画に)餓えていた僕らは、食事が終わってからもしばらく読み耽ってしまった。
『明日からは、漫画の置いてある食堂を探そう!』
どうですか!この本筋とは全く関係のない決意!これが大学生遍路の現状なのです。
で、そんな不真面目な態度でいると、どこかで見ている弘法○師のおじさんが、必ず僕らに天罰をくらわすのです。わかってるんだ。今度はなんですか?また雨ですか?それとも雪ですか?
しかし、弘法○師のおじさんはやはり一枚上手だった。
しばらく歩いて行くと、前方に真っ黒の電線が姿を現した。
「なんだいあれ?」
『なんだろうねえ?』
「おい、カラスじゃねえか!?」
『!!』
近づくと、気持ちが悪くなりそうなくらい大量のカラスが、電線にとまっていた。とくれば、当然その下は奴らの糞だらけなわけで…。
「うお!キツいぞこれ!」
『よし、おれカッパ着る!』
「ま、まて!あんなロボットみたいな格好で国道歩くってか?この不審者やろう!」
『ああ!?』
喧嘩だもの。
ここまで相方林についてはいいことばかり書いてきたけれど、実は二人とも、ここまでで結構喧嘩してきているのです。やれ歩くのが早いだ、昼はうどんが喰いたかっただ。ただ、二人とも忘れるのが早く、すぐにまた馬鹿話を始めてしまうので、なんとかコンビ解消には至っていないのです。本当に毎日退屈しなくいいですよ。
カラスの大群をなんとか突破する我々。
すると今度は、突風と雪の攻撃が始まる。もう3月も中旬だというのに、この寒さは以上でしょ…。
そしてこの雪、どういうわけか僕らが札所につくと止んで、歩き始めると降ってくる。まるで僕らの行動をよんでいるかのように…。
少しでも寒さを防ぐため、軍手をはめ、頭に手拭いを巻くが、全く意味をなさない。
『ああ!もう寒みーなあ!』
「も、もう少しで宿だ。いいか、死ぬなよ!」
別に北極を探検しているわけではないんですよ、この二人は。しかし、雪に慣れていない僕らは、明らかに、四国の平地で遭難しかけていた。
それでも、気合いで61番札所香園寺、62番札所宝寿寺、63番札所吉祥寺と続けざまに打つ。
宿に着くと、案の定、雪は止んでしまった。やはり誰か(というか弘法○師のおじさん)が僕らの行動を監視している…。しかし、このまま止んでいてくれれば、明日は通常の登山道を歩けるかもしれない。
明日は雪を降らせないでください。
と、弘法○師のおじさんにしっかりとお願いをし、僕らは眠りについた。
本日の日程
58番→59番→61番→62番→63番→宿 合計30キロくらい
58番札所から望む瀬戸内海
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