21日目 悟り
2005年 3月3日
朝6時半ごろ、久百々の宿を出発し、土佐の国最大の難関、足摺岬突端の38番札所金剛福寺を目指す。距離は片道およそ22キロ。往復で44キロ。これは、僕の足を破壊した室戸岬の40キロを超え、この旅最長の歩行距離となる。
昨日言ったとおり、足摺岬へは、宿に2泊し、荷物を預け向かうのが一般的となっており、僕もそれにならおうとしているわけだけれども、荷物なしでも44キロは厳しいんじゃないかしら…。幸い足の方は、ここ数日のゆっくりペースと、例の消毒薬「イソ○ン」のおかげでほぼ治ってきてはいるけれど、また悪化しないだろうかと不安は募る。
「あんたコンパス長いき!昼前にはついてしまうわ!」
朝から元気な久百々のおばちゃんと、昨日夕食時に意気投合した、同い年の若者遍路、林くんに見送られ歩き出す。
彼は三重県出身で、現在は奈良県の大学に通っており、昨年歩き遍路をした友人に影響され歩き始めたとのこと。僕と同じく4月からは大学3年となり、彼もそろそろ就職を考え始めるころ。
同じような悩みを持っていたこともあり、話がよくあった。お互いの住所を交換したので、これから会おうと思えばいつでも会えるけれども、この旅の途中で会うことはもうないんだろうな。
前にも言ったことあるけれど、歩き遍路の旅では1日の差がものすごく大きい。1日差がついてしまうと、距離としては30~40キロは離されてしまう。歩きのみでこの差を縮めるのはまず不可能。現に、一昨日別れた奥山くんとは、およそ10キロほどしか離れていないだけなのに、今だに出会えていない。
林くんとはまだまだいろいろと話をしたかったけれどねえ。
久百々の宿から1時間ほど歩くと、一般道から大岐という海岸に下る。ここからは砂浜沿いを歩くらしい。早朝の誰もいない海岸を一人で歩く。それはまるで、『砂の器』のワンシーンのよう。空は今にも雨が降り出しそうな曇り空。まさに旅という感じ…
に、傍からみたら見えるんでしょうけれどね、実際歩いているこっちにしたらそれどころではないのです。
砂浜というのがここまで歩きづらいところだとは思いもしなかった。足が砂に沈むこと沈むこと…。まるで足腰を鍛えるために、靴に鉛でもつけているかのような気分。僕は別に足腰鍛えたくはないんだけどなあ。
砂浜を乗り越えると、今度は一般道へ戻るため、苔むした岩場をひたすら登る。
なんだ、また一般道へ戻るんだったら、わざわざ海岸おりなくてもよかtt
なんて文句を言うと、どこかで見ているお大師さんがさらなる苦行を与えてくることを僕はここまでの旅で分かっているので絶対に言わない。
その後は、一般道をひたすら南下。窪津という小さな漁村で魚市場をのぞき見した以外は、特に見るべきものもなく、ただひたすら南下。
しかし、荷物がないというのがここまで楽なものだとは思わなかった。例の海岸は除くけれど、一般道ではあまりの身の軽さにかつてないほどのスピードで歩くことができた。徳島の10番札所手前で会った高速ばあさんとの死闘を思い出す。しかし今日はそれ以上の速さで歩き続けた。今まで8キロ前後の荷物を背負ってよく歩けていたな…。
高速で、そして休憩を1度もとらずに歩き続けてしまったおかげで、10時半には足摺岬に到着してしまう。22キロを4時間。時速5キロ超!
このペースでいったら、今日中に39番までいけちゃうんじゃね?あはあはあは
なんて調子に乗るもんだから、お参りの最中についに雨が降り出してしまった。恐るべし、お大師様…。
とりあえず傘を購入するため、急いで門前の土産物やへ向かった。その時、門の手前で若い茶髪の兄ちゃん二人とすれ違った。白装束を着ているところを見ると、一応遍路なんだろうけれど、こちらが挨拶をしても返してくれなかった
お遍路(というか歩き遍路だけ?)の間では、札所なり遍路道なり、すれ違ったら挨拶をするのが当然のこととなっていた。仲間意識というものもあるけれど、たとえ遍路でなくても挨拶は基本である。
傘を買い土産物屋から出てくると、先ほどの茶髪やろうが、バカ騒ぎをしながら車に乗って出発するところであった。
昨日、三重出身の林くんと話した時にこんなことを聞いた。
「京都とか奈良の仏教系の大学は、四国遍路を行うと単位もらえるらしいで。しかも歩きでも車でも関係ないらしい。うらやましいのお~」
大学には行くけれど授業にはさっぱり出席していなかった僕たちには何ともうらやましい話なのだが、先ほどの挨拶無視茶髪やろうも、単位目当てで札所を回っている大学生なのかもしれない。まあ決めつけはよくないけどさ。
しかし、単位目当てで札所まわっていいことなんかあるのかしら。僕だって、趣味の一環で信仰心もなくふらっと歩き出したわけだから偉そうなことは言えないけれど、実際に歩いてみて、ただ札所を回るだけでは幸徳もなにもないような気がしてきた。
実際に札所間の道を歩いてみて、多くの人や自然と触れ合ってこそ、幸徳はうまれるんじゃないかなあ…。なんて柄にもなく偉そうなことを述べてしまいましたとさ。
というか、どんな方法、どんな動機でも遍路には違いないんだから、比べちゃいけないんだろうけどね、本当は。あーまだまだ悟ってないんだなあ、もう半分歩いてきているというのに。
本日の行程
久百々→38番→久百々泊 合計44キロくらい
大岐海岸より足摺岬を望む
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