12日目 悲劇の始まり
2005年2月22日
6時半、朝やけの海を眺めながらの出発。
ついに2度目の旅が始まった。
今日の予定は室戸岬の先にある24番札所最御崎寺。ここ徳島県宍喰町からおよそ40キロ。うむ、明らかに無謀な計画だ。
1年前の旅では、『山登りのO川』なんてさんざん持て囃されたけれど、よく考えてみると、1番長く歩いた日でもせいぜい25キロ。40キロはおろか30キロすら歩いたことがなかったのだ。
しかし、僕には自信があった。絶対に40キロ歩き切れる、そんな根拠のない妙な自信がこのときの僕にはあった。
寒空のなか、僕は意気揚々と歩きだした。この妙な自信が、のちにとんでもない悲劇を引き起こすことになるとは、この時は思いもしなかった。
さて、前にも書いたように、ここ宍喰町は徳島と高知の県境。宿を出て10分も歩くと大きなトンネルが姿を現した。その名も『境目トンネル』。わかりやすすぎるぜ…。
そんな一目で県境だとわかる境目トンネルさんを抜けると、そこは、太平洋が眼前に広がる美しい漁村、高知県は甲浦町。ちょっと寄り道して街の中に入ると、何とも懐かしい感じがするいい雰囲気の街。徳島県で出会った街とは全く雰囲気の違った街だった。県境をはさんで街の様子がここまで違うとはちょっと驚きである。
街歩きを楽しんだあとは国道55号線をひたすら南下する。
途中、東洋町にて「スリーエフ」という名の見慣れないコンビニを発見し、大盛塩焼きそばを購入。道端で朝ごはん休憩をとる。そんなとき、後ろの林で何かが動いた。
「!」
よく見ると、そこには大きな猿がいた。しかも一匹ではない。「群れで」である。
「ほえー!」
田舎育ちとはいえ、さすがに猿の群れをなど見たことのなかった僕はますますテンションが上がってしまい、妙な叫び声をあげながら55号線を南下し続けた。
10時ごろ。野根という名の小さな集落を過ぎると、前方に雄大な岬の姿が現れた。室戸岬。とうとう姿を現したな。
しかし、よく見てみるとそんなに遠い気がせず、むしろあっという間についちゃいそうな感じすらする。
「おっしゃ!いくぜ!」
猿出現以降、上がりきったテンションが下がる気配のない僕。今日の敵、室戸岬の姿を発見しさらに気合いをいれだした。
しかし、この気合も、そして妙なテンションもそう長続きはしなかったんだ…。
お昼頃、佐喜浜の集落に到着した僕は愕然としていた。
前もよく見ず、一心不乱に歩いていた僕。もう室戸岬は目の前だろう!そう信じて、前を見た。しかし、室戸岬さんははるか遠く、2時間前とほぼ同じ姿でほほ笑んでいたのだ。
あ、あれ?
あせった僕は、すぐさま地図を広げた。
するとそこには『室戸岬まで20キロ♪』の文字。僕は目の前が真っ暗になった。ここまでかなり頑張って歩いてきた。足も相当疲れていた。徳島ではちょうど宿に着くころ、こんな感じの疲労感に襲われたんだっけ…。
しかし、驚くべきことに、土佐の国高知県さんはここからさらに20キロ以上歩くことを僕に要求してきた。
「まじかよ…」
2時間前のあの妙なテンションと気合はどこかへいってしまっていた。
お昼を境に僕のテンションはガタ落ち。それとともに歩くスピードも急激に落ちていった。『病は気から!』なんてよく親に言われたけれど、あれは本当なんですね。
しかし、歩く以外に方法はない。地図によると、休憩をとった佐喜浜の集落から15キロほどは、商店はおろか自販機すらないんですって。倒れたら本気で死んじゃうんじゃないかしら?
最後の気力を振り絞ってじわじわ歩く僕。
これは12番札所焼山寺以上につらい…。つらいよ…。
どれくらい歩いただろうか。不意に前方に『室戸の海洋深層水』とかかれた建物が姿を現した。そして、『室戸岬4キロ』の看板も。
よし、もう少しだぞ。
気合いをいれたその時だった。
足の裏に激痛が走り、僕は思わず座り込んでしまった。靴下を脱ぐと、足の裏が真っ赤になっていた。
マメである。徳島では奇跡的に1度も襲われなかったマメの恐怖に、ついにやられてしまった。
足の裏のあまりの激痛と、ここまで歩いてきた疲労から、僕はなかなか立ち上がることができなかった。
もう駄目かもしれん…。
この旅で初めてそう思った。
その時である。
『お遍路さんがんばりやー!』
僕の横を走って行った車から励ましの声が聞こえた。
それまるで、1年前徳島で出会った仲間が励ましてくれているかのような、なんともグッドタイミングな掛け声だった。
いかなきゃいかんな…。
足の痛みに耐え、僕は歩き続けた。
そして、閉門時間ぎりぎりに、ようやく24番札所最御崎寺に到着した。
安ど感からか、それとも極度の疲労からか、山門をくぐった僕は思わずその場に座り込み、しばらく立ちあがることができなかった。
本日の日程
宍喰 → 55号線をひたすら南下 → 室戸岬 合計40キロ
室戸岬ははるか遠くに
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