14日目 敗北
2005年2月24日
徳島の1番札所を歩きだして通算で2週間たったこの日。ついに事件は起きてしまった。
愉快なおばちゃんが経営する民宿『ドライブイン21』に荷物を預け27番札所神峰寺を目指す。
あいかわらずの足の痛み。というか悪化している気すらする。
あまり詳しく言うと気持ち悪いので簡単に説明すると、足の裏にできたマメがつぶれ皮がむけてしまっており、消毒液を使っても患部が乾燥しない。そりゃそうだ。絆創膏をあてがっているとはいえ、1日何万歩も歩いているんだから、そのたびに患部がこすれてしまうのだもの。昨晩なんかは痛みで数時間おきに目を覚ます始末…。
その痛みに耐え、400メートル級の山の上にある27番札所を目指す。
なんだ、400メートル級なら大したことないや、などと考えているそこのあなた!あまい…。実は、この山は海岸線からかなり近い所にある。昨晩泊まった民宿も海のそばにあったんだけれども、ということは、「海抜0メートルから400メートルまでを一気に登る」ということを意味するのだ。いまいち伝わりにくいかもしれないけれど、実際その場所に立つと絶望的な気持ちになる。
目の前にそびえる山の上の方にかすかにちっちゃい小屋が見える。最初、僕はミカンとかを入れておく倉庫かなんかだろうと思っていた。しかし、その日の朝の出発の時、宿のおばちゃんはミカン倉庫を指差しこう言った。
『あれが27番札所じゃき!』
僕は泣きそうだった。
『お遍路さんがんばってください』
道すがら、登校途中の小学生に励まされた。
「君らも勉強頑張りなよ!」
そう返すと、子どもたちは恥ずかしそうに笑っていた。
子供たちから元気をもらい、気合いで27番札所を打ち終え再び民宿に戻ってくると、すでに時計は午前10時をまわっていた。そして、パラパラと雨が降ってきていた。
しかし、今日の行程はここからが本番。次の28番札所までは30キロほど。ここを歩ききるつもりでいたのだ。
おばちゃんにキャラメルをお接待していただき、合羽を着こみ再び出発。雨は徐々に強さを増してきていた。
僕は前だけを見つめ、ただもくもくと歩いた。歩くことに神経を集中させないと、足の裏の痛みでおかしくなりそうだった。昨日までは、歩いている最中は足が麻痺し痛みを感じないなんて思っていたが、今日はいつまでたっても足の痛みがひかない。地図も見ず、時計も見ず、ただ前だけを見つめて歩き続けた。
どれくらい経っただろう。かなりのスピードで、そしてかなりの時間歩いたと感じていた僕の前に、お約束の遍路道案内看板が現れた。
この看板、地元の人やボランティアの方々が四国中の遍路道沿いに設置してくれている。看板には次の札所までの距離やメッセージなどが書かれており、ここまで幾度となく僕を励ましてくれたありがたい看板。しかし、今日は違った。いつもはやさしさを運んできてくれる看板さんがこの日運んできてくれたのは、予想外の地獄だった。
『28番札所まであと22キロ』
看板にはこう書かれていた。
あれほど一生懸命歩いてきたのにたったの8キロしかきてないの?
半分は来ただろうと勝手に確信していた僕は信じられなかった。時計を見ると12時半。休憩を挟まずに、2時間半もくもくと歩き続けたにもかかわらず、わずか8キロしかきていない。今までの僕からすると絶望的な遅さだった。
今思うと、この時点で僕の気持は折れてしまっていた気がする。
遍路道と並行して走る『土佐くろしお鉄道』が気になって仕方がない。
これにのれば、目的地まで30分で着く…。
そんな誘惑を振り切ろうと再び気合いを入れなおし歩きだす。列車のことを忘れようと、最後の気力を振り絞って歩き続けた。
しかし、次の瞬間、その気力はもろくも崩れ去った。
歩道前方に水たまりを見つけた僕は、避けようともせず、なぜか足を突っ込んでいた。なぜそうしようと思ったのかはわからないが、悔しいことにその水たまりは、僕の今までの人生で出会った水たまりの中で最も深いものだった。
僕の靴は水たまりに浸かったおかげでグショグショに。近くにあったバス停のベンチで靴を脱ぐと、足の裏からの出血で僕の靴下は真っ赤だった。
もう無理だわ…。
僕は決心した。最早迷いはなかった。
足を引きずりながら、僕は土佐くろしお鉄道安芸駅へと向かった。
待合室にいると、地元のおじちゃんがアイスをお接待してくれた。
『雨の中がんばるなあ!おへんろさんよ』
ハハ…。おじちゃん、僕は負けたんですよ…。
安芸駅から5つほど先の夜須駅で下車。今日はここから徒歩15分ほどの国民宿舎へ泊まることにした。
宿へ向かう途中、一人のお遍路さんを見つけた。なんと、昨晩同じ宿で今朝も僕と一緒に出発した若者遍路だった。彼は雨の中ここまで歩き続けたのだ。
彼は自分に負けずここまで来たのに、自分ときたら…。
その光景を見て、妙に悔しくなった。
僕は弱い人間だ。
本日の行程
宿→27番→宿→安芸駅~列車~安芸駅→宿 合計15キロ
山の上のちっちぇ小屋が27番札所







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